(閉・戻)

 室生犀星原作「あにいもうと」名作劇場を再度TV鑑賞して。
                    平成9年5月4日    中村三郎

 既に父母のない兄妹が幼い頃から叔母の援助のもと、自立していく姿を描く。兄
の妹思い(保護)が結果的に個として自立の時期に近づくにつれ、激しい疾風怒涛
の時を迎える。兄を慕うあまりの妹は他の女性が兄のシャツのとれたボタンをつけ
たことに嫉妬の思いを抱き、そんな自分に言い聞かせるようにしてかねてから誘い
のあった家に女中奉公に出る決心をした妹。

 妹は、雇い家の親類の同居学生に操を奪われる。激しく抵抗したにもかかわらず、
翌日の二人(学生、特に女中である妹)の秘めた男女の独特の感情。数か月後、妊
娠を知り、身重の体調が悪くなって兄の家に戻った妹は、兄にひどく侮辱を受ける。
兄は学生が憎いのだが、どこかで妹と心身とも共鳴する一体感があったのが崩れて
いくことにいらだつ。
妹は流産し、体が回復する間もなく一人でひっそりと遊廓に働きに家を飛び出し、
数年後、自分にかかった医者代などのお金を兄に返す。

 ある時、学生が兄の家に様子伺いに訪れるが叔母しかいない。学生が帰った直後、
兄が自分の家に戻り、叔母から話を聞いた兄は、学生のあとを追い、学生を袋だた
きにする。
間もなく、妹が兄の家を訪れ、妹は兄から学生が謝りに来たことを告げられるが兄
が無抵抗の学生に乱暴を働いたことに大いに怒る。そのときの兄妹のとっ組みあい
の最中で妹の口から出た言葉は(古い世代ながら女性の不条理が分かる)同じ女性
の身である叔母をも驚かせ感心させる。
世間の荒波を経験した妹は、自分が世間を何にも知らないまま、大きくなったのは、
とりもなおさず育ててくれた兄であったこと、兄もお嫁さんをもらって自分の家庭
を築き子をもうけ自立すべきであると妹は言う。
動物親子ですら、子の巣立ちを促す親は子を噛むしぐさをするという儀式をとおし
て、子が自立し、親も自立していくのだと言う。

 兄も妹も、幼い頃の楽しかった数々の思い出を懐かしみ回想はするが、永遠につ
づくものではないこと、つらいがそれぞれ巣立たなければならない時期がくること、
叔母が勧めても、再び兄妹が同じ家に暮らすには自分の自立心がつきすぎているこ
とを妹は叔母にも、兄にも、そして自分にも言い聞かせる。作品中では親が子にで
なく、妹が兄に(やや手ひどく)噛みつき兄に気付かせる構図だが兄役、妹役、叔
母役とも好演。